ラーメンの悲劇

今日は良く晴れていた。折角の休みだ、部屋の掃除をしなくては
きっと隣のおば様は布団を干すだろう。そんな事はどうでもいいが
きっと日曜で休みのおじ様方は、日向でごろごろしているだろう。おば様たちに邪魔扱いされるがいい。
そんな中、川原の隅で集まる大の大人たち。はたから見れば暇人の集合体だな
彼らは二つの集団を作っており、俺のいる方は赤いユニホームに身を包んでいる。ちなみに向こうの集団は黄色いユニホーム着用だ。そして更に言うならこの大人たちは、この時、この瞬間に『草野球』と言うスポーツをする事だけを楽しみに生きているらしい。

 相手チームと、オレの所属するチームはよく試合をしていて、チーム全員の顔を覚えている。そのはずだったが、今日は見慣れない顔が一人。
長身で、縮れた金というよりも黄色っぽい髪に青い目。その上鼻が高く、色白の外人らしき人物が相手チームに混じっているのだ。
彼は、向こうチームの監督曰く『強力外国人助っ人』らしいが、俺が彼のことを凄いと思ったのは別の所だった。それに気付いたとき、俺は息をのんだよ。
青い目に金髪に高い鼻。長身。ちょっとたれ目気味といったパーツパーツの美形の条件をクリアしている。それなのに何故だか全てをふまえて彼を見ると、どうもタレントなのか芸人なのか分からない、いききれていない三流の匂いが嫌と言うほどに漂ってくる。
これはおもしろい。メンバー表を見れば、奴の名前は死に掛けの人間が書いたような英語で書かれていて、俺は英語すら読めないのに更に解読不可だった。
……しょうがない、奴は俺の心の中で『ラーメン』と名付けよう。たとえそのネーミングセンスが小学生ばりだとしても、俺は気にしない。何故かって?心の中は少年だからさ。って、アホか、俺。
心の中で、彼の髪を見て俺は思う。
俺は何か笑いの予感を感じつつ、試合に挑んだ。

 あぁ、青い空がまぶしいぜ……。


七回表、俺のチーム二点、向こうも二点。戦いは平行線をたどったまま。しかし、相手チームの攻撃、そして満塁という我がチーム最大のピンチだ。
ここでようやくラーメンの登場。と言っても、あっという間にツーストライク。次空振ればアウト。そんなところで、ピッチャーが振りかぶって投げた。
 あ、すっぽ抜け。
(野球に興味も愛も憎しみも無い諸君に説明しよう、すっぽ抜けとはボールが投げる瞬間に手から抜けて、コントロールされてない駄目ボールになることだ。多分)
そのボールが見事にラーメンの右脛に当たり、ラーメンはデッドボールで一塁へ。そして満塁だったのせいで三塁の走者が押し出しで、相手チームに一点入ってしまった。
ラーメンは痛いだろう右脛を押さえる事もせず、ノープロブレム!!とか言いたげな顔して一塁へ歩く。何気に足取りも普通を装っているが、相当痛いに違いない。すっぽ抜けだとしても、結構な速度だったからな。ふっ、ちょっと足引きずってるし。痛いなら痛いでいいだろう。余計気になるぞ。
だが、俺が期待しているのはそんな安易なボケじゃない。もっと高等で奇跡のような笑いが欲しいのだ。それはもう思い出し笑いで爆笑できるような、めくるめく笑いが欲しいのだ!!!!!!
次の打者がバッターボックスに入り、その場にいる人間(ある一人を除く)の視線は彼らに集められた。ちなみに、ある一人とは俺のことだ。俺の視線はラーメンに釘付けだ。だってアイツ、痛がってるから。皆見てないところで痛がってるよ。俺は見ているけど。
詰めが甘いぞ、ラーメンさんよぉ。あぁ、笑い堪えるの大変だ☆
 
 俺がラーメン観察に精を出しているうちに、気が付けば一点差で俺のチームが負けのまま、九回裏、ツーアウトになりかけていた。関係ないが、もうすぐ『いいと○』が始まる
 一応満塁なわけだけど、あぁ、こりゃ負けかな?とか思って次の打者誰だ?と、周りを見回したらチームメイトがバットを俺に渡してきた。『いい○も』に、今日はオリエンタル○ジオがでるんだよ
えぇ〜、俺?バッティングは苦手なんだよね。あ〜、オリエンタルラジ○が見たい

俺はしぶしぶ控えの場所に行き、前打者が空振ったところでバッターボックスに立つ。
 実は俺、左バッター。そして一、二塁の間にボールを飛ばすのが得意だ。そこは誰が守備をやっているのか、と思ってそっちに視線をやれば期待通り。そこには脛の痛みから復活したラーメンが立っていた。よく見ればその顔は俺をなめくさったような顔をしていて、よそ見しながら鼻歌まで歌ってやがる。あ、しかもガム噛んでやがる。三流芸人面だから余計にむかつく。
 くそっ、お笑い要員のくせに!!!!!それは俺が勝手に思っているだけだが。

ピッチャーが振りかぶって投げること二回。俺がそれを見逃す事二回。

さぁ、最後のチャンスだ!!早く終わらせてオリエンタルラ○オが見たい!!!

ピッチャーの投球は、俺のバットに見事に捉えられた。それを感じて、俺は思いっきりバットを体で前に押し出した。
 その時、俺は焦った。
 ……やっべぇ、すっぽ抜けた。
 え、何がって?そんなの決まってるだろう☆
 バットだよ。バット。俺の金属バット。
 見事に宙を舞う俺の金属バット。その回転は素晴らしいものだ。それが向かうは一二塁間。ラーメンめがけて一直線だ。俺のバットはそんなにあいつが好きだったのか。
ラーメンの顔が驚愕に支配される。俺もこれはまずいだろう、と思って笑いを忘れて事の成り行きを見守った。
 その時、ラーメンがとった行動は腰をぬかす、だった。微妙な判断だったが、そのおかげでラーメンは難を逃れた。優秀な体だな、羨ましいぞ。
 に、思えた。思えただけだった。なんたる不覚、俺が笑いの種を見逃すとは。
 次にラーメンに迫っていたのはめくるめく笑いの予感、ではなく悲劇の予感。彼の倒れこんだその先には、何があったと思う?
 犬のフン?
 水溜り?
 それとも腐った果実でもあったのか?
 全部違う。その先にあったのは……。
 正しく!ラーメンが噛んでいたガム。あいつ、グランドにガム吐きやがった!!話は変わるが噛みたては柔らかいんだ。
 哀れラーメンは、そのガムの上に手を付きましたとさ。
 そのあとのあいつの顔といったらそっりゃぁもう微妙で、笑いのネタにすらなら無かった。ま、自業自得ってやつですよね。

ちなみに、俺の打ったボールは場外に落ちていた、見事な場外ホームラン。さすが俺。

あぁ、青い空がまぶしいぜ……。って、オチが無いっての!!!



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