真っ白い空間。
空も無い。
光も無い。
ただの白。
本来、地面に該当する場所には、無限に敷かれるジグソーパズルが。一つ一つのピースが集まり、形取るのは何の意味も無い模様。
パズルの上、十センチほどの場所、と言ってもそこには何もないのだが。そこに足をつく色白、白髪の少年、メティア。この世界の色は、パズルの織り成す色と、彼の瞳の深い青のみだ。彼の纏う服も、愛想の無い白である。
無音で、メティアが見渡す限りに広がるジグソーパズルのピースを一つ外す。
その瞬間、地上ではそのピースが司っている人間が一人、死んだ。
「メティア様、そろそろお眠りになられたほうが……」
メティアの従者、レイラスがメティアに言う。しかし、そこにはレイラスの姿は無い。
 彼は声だけの存在、もしくは、メティアにだけは見えているのだ、と神々は言うのだ。
「レイラス、私に眠りは必要ないと何度言わせれば分かる?」
メティアの深い青の瞳が、虚空へと向く。
「しかし――」
「私の役目は、ここで未来永劫人を操り過ごす。それだけだ。他の事は必要ない」
わかったな。
そう言うかのように、メティアが視線を強める。
静寂。それはレイラスが不満はあるが了承した事の証拠だ。


長く続く静寂。
メティアは、パズルの上を歩く。そして、あるピースに目をつけたらしい、そこへ座り込む。
 そのピースは、灰色。それが司る人物は、あまり良い生活をしていないようだ。
 メティアが、希望を作り出す右手で拳を握る。数瞬の間も置かずにその拳の中が輝きだす。固く結んだそれを解けば、姿を現したのは直径一センチ程の金に輝く球体。メティアはそれをその一つのピースに向けて落とした。ピースは、その落とされた球体を拒絶することもなく微かに波紋を残して飲み込んだ。
 直後、灰色だったピースが球体と同じように輝きだし、その色を変えた。
 これで、ピースの司る人物の人生は、その輝きのようなものに変わるのだろう。

「レイラス、この時に忘れられた運命の神の運命も、このピースの中に存在しているのだろうか?」
不意にメティアが口を開く。
「『ただ、私にだけは見えないのかもしれない』などと言う事は、無いか?」
悲しげに伏せられた瞼。
力なく吊り上げられる唇の両端。
 メティアが、立ち上がったが、その姿はあまりに頼りない。
「恐れながら、そのような事はございません」


なにせ、貴方は『運命の長』なのですから。

レイラスが言った瞬間、メティアが数百年ぶりに感情を見せた。
 悔しそうに歯を食いしばり、左手で己が頭を抱える。右手は震えるほどに握り締め、メティアは息を荒くする。
 怒り、哀しみ、諦め。
 彼から垣間見れるのは、負の感情。
「今まで、数え切れないほどの子等を殺してきた。私が生を与え、見守った愛しい子等を……」
レイラスは、何も言わずにメティアの言葉に耳を傾ける。
「私は、いつまでこれを繰り返せばいいのだろうな……」
その呟きは、果たして答えを求めているのだろうか。
否。
彼の中では既に答えは出ているのだろう。
 恐る恐る、レイラスが言う。
「恐れながら、それは……『未来永劫』かと」

俯いたメティアの深い青の瞳から、透明なものが落ちる。
それは、彼の握り締められた右手へと落ちた。
「……?メティア様……」
レイラスが、何かに気付いたかのようにメティアを呼ぶ。
「……なんだ?」
己が涙を拭い、メティアが顔を上げる。
「!?」
右手に違和感。
今まで自らの意思で作り出していたピースが、ひとりでに現れていた。
朝焼けの色に輝くピース。
希望の色だ。
「……お前が、私を救ってくれるというのか?」
メティアは力なく言って、開いたパズルの隙間にその希望のピースをはめた。




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