「……お姫様……」
脱獄騒ぎを後ろに引き連れて、レメディスがリーゼの部屋にたどり着いた。
そこには、誰もが目を見開くような光景が広がっている。
リーゼの部屋には二体の死体と、それを無慈悲に見下すリーゼの姿があったのだ。
 レメディス達を追っていた兵達がざわめく。クレールとフェリーチェの亡骸を見止めたのだろう。
「皆、よく聞きなさい。亡き国王、アロワを弑逆した犯人はこの二人です」
 落ち着いた声。声だけ聞けば、それは数日前のリーゼと変わりはない。
視線は、床に転がる死体に落としたままのリーゼの言葉に、兵士達は更に混乱した。
「そこに居る囚人達、そうですよね」
 ただならぬ威圧感に、レメディス達はただ頷く。
「国は、私が仕切ります。それが、神のご意思です」
 リーゼは、血塗られた剣を鞘に収め、歩き出した。部屋の外、皆の下へ。
 真っ赤な返り血を浴びたリーゼは、まるで一人、戦場から帰還した騎士のようだった。
「レメディス、貴方に騎士団長の位を与えます。一団率いて、奴隷市場へ。潰します」
「俺に騎士団長を……?」
 信じられない、と、レメディスの表情は言っていた。それをリーゼは一瞥。そこでようやく、いつものように柔らかく微笑んで見せた。
「急いで、時間が無いのです。聞けば、もう四日も……。今すぐ出立の準備を。軍は……そう、奴隷の軍があるという話を聞いたことがあります。彼らにしましょう」
 何歩か、リーゼが赤い巫女服を翻して歩いた。そして何かを思い出したかのように立ち止まる。
「その骸は、町の広場に張り紙を張って晒しておきなさい」
 誰にとも無いその声は、それはなんとも残酷な響きを含んでいた。



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